けれど彼は私の呼びかけなど聞こえていないように前を向いたまま、アスチルベの剪定を続ける。その態度に私の胸がたちまち不安で曇った。
彼はとても怒っている。私が六年も欺き続けたことに。ううん、怒っているどころではない。落胆して失望して、もう関わりたくないとさえ思っている。
私の方を見ようともしないゲンツさんの態度からは、そんな気持ちが伝わってきた。
「……ごめんなさい。私、どうしても秘書官になりたかったんです。そのためには男として生きていこうって決心して。悪戯でゲンツさんを騙していた訳じゃありません。それだけは分かってください」
こちらを向かない背に向かって訴える。するとゲンツさんは背を向けたまま「うるせえ」と呟くように言った。
「お前の言うことなんかもう信じられねえよ。六年間も俺を欺きやがって。もう二度とお前のツラは見たくねえ。メッテルニヒの奴もだ。俺は宰相秘書官長をやめる。帰れ」
後ろ姿から表情は窺えなかったけれど、彼の言葉はあまりに悲しかった。
いつだってまっすぐに感情をぶつけてきたゲンツさんが、顔も見ずただ淡々と拒否したのだ。もはや私は怒ってもらう価値もないのかと感じて、悲しくてたまらなくなる。
「辞めないでください、秘書官長。ゲンツさんはクレメンス様の片腕です。いなくちゃならない人なんです。どうか、お願いですから――」
泣きたくなる気持ちをこらえてした懇願は、ゲンツさんの「うるせえっつってんだろ!」という怒鳴り声で遮られた。



