「みっつ目は、なんですか?」
「ん、まあいい。とりあえず、そんなところだ」
まるで言いかけたのをなかったことにするように、クレメンス様はさっさと話を切り上げるとベルでマリアさんを呼んで空いたカップを片づけさせた。
しかし、それにしても。
(私……クレメンス様と結婚しちゃった訳だよね……)
政治的な問題の解決策とはいえ、いきなり人妻になってしまった。しかもクレメンス様の。
いわゆる偽装結婚というものだろうか。そこに愛がないことは分かっているけれど、私としては心穏やかではいられない。
「ク、クレメンス様はその……ご迷惑じゃなかったんですか? いきなり私なんかと結婚だなんて」
オーストリア一のモテ男ともいえる彼が、偽装でも私みたいな異国のチンチクリンを妻にして迷惑千万なのではないかと心配になる。
するとクレメンス様はソファーから立ち上がってテイルコートの裾を軽く正しながら、「きみの面倒は私が見ると決めたからな」と言った。
あまりにもなんてことのないように言うものだから、私には彼の心がはかれない。
クレメンス様はいつどんなことだって政治的な視点から見ている。彼にとっては結婚も自分の立場や政務に付属する一環で、好き嫌いだとか幸福かどうかなど関係ないと考えているのだろうか。
そうだったら少し寂しいなと、胸がチクンと痛んだ。



