何せクレメンス様は実質オーストリアの行政のすべてを握っている人だ。一部では皇帝陛下は宰相の言いなりだとまで言われている。
そんな風にクレメンス様が陛下に変わって行政の判断をすべてくだしていることに比べれば、女の秘書官をひとり男装させて紛れ込ませることなど、ほんのおふざけに過ぎないと思われたのだろう。
「しかし今回、予想以上にきみが女だということが広く知れ渡ってしまった。しかも今のきみは大公妃秘書官だ、私がどうこうする権利がない。きみが非難に晒されたとき大公妃殿下はきみを庇うだろうが、それだけでは守り切れないだろう。彼女の権力はまだそこまで強くない。――だから最後の手段として、私の妻という地位をきみに与えることにした。問題が発覚してから取り繕ったと思われないように、六年前にすでに入籍してあるということにして。皇帝陛下の承認、大公妃殿下の庇護、そして宰相の妻。この三つの後ろ盾があれば、きみを表立って非難し行政官の資格を剥奪しようとする者はいないだろう」
「……はあ、……」
確かにそんな強力な後ろ盾が揃ったのなら、このオーストリアで文句を言える人はいないはずだ。
自分は今、ものすごい特別扱いをされているのだなと感心をしていると、クレメンス様が再び紅茶を口にしてから続けた。
「それからふたつ目の理由。私が妻に男の格好をさせて喜ぶ変態だという噂を流すことで、一部の権力者の共感を得るためだ」
「は!?」
さすがに今度の理由は理解ができず、怪訝さ丸出しの声をあげてしまう。
「陛下や私の権力があっても、口を出せる立場の者がいる。聖職者だ。反メッテルニヒ派の者が聖職者を取り込んで、ツグミの件を盾に攻撃してくる可能性もあるからな。それをあらかじめ防ぐため、高位聖職達を味方につけることにした」



