「きみと私は六年前に結婚している……ということにした。書類上の処理も教皇庁への根回しもきみが伏せっている間に済ませておいた。あとは私が作った筋書きにきみが合わせてくれれば問題はない」
「いやいやいや。問題だらけです、ちっとも分からないです。ゼロから説明してください」
まったく理解できなくて首をブンブンと横に振れば、呆れたように肩を竦められてしまった。
「いつも言っているだろう。相手に答えを全て求めるのではなく、自分の頭で考えるんだ」
そんなこと言われても、いざ我が身のこと、しかもいきなり妻だなんて言われて冷静に考えられるはずがない。
それでもクレメンス様はツンと横を向いて答えてくれなさそうだったので、仕方なく頭をフル回転させることにした。
「……私が女だということが宮廷中にバレてしまった訳ですよね。そうなると、皇帝陛下及び王族の方々を騙した罪に問われ、免職、下手すれば国外追放になる。けどそうならないのは皇帝陛下のお許しがあったからだと、先ほど大公妃殿下に窺いました。……もしかして最初からクレメンス様は皇帝陛下に私のことを妻としてご紹介していたのですか?」
考えを口にすれば、クレメンス様は瞳を伏せ優雅に紅茶を飲みながら、「三十点。まだまだだな」と私を評した。三十点という酷評に、ひそかに落ち込む。
「万が一きみの正体がバレたときのために、陛下には元々ツグミが女ということは打ち明けてあった。そのうえできみがオーストリアの行政官になりたいと強く望んでいること、私の監督下で育て男として扱うことを訴え承諾していただいたんだ。突拍子もない申し出ではあったが、まあ秘書官ぐらいならと陛下もお考えになったのだろう」
異国の女性を行政官にしたいだなんて普通ならばありえない話だけれど、クレメンス様だったから許されたに違いない。



