「すみません、大公妃殿下。あの……僕、ずっと寝込んでいたので今状況がどうなっているのかよく分かっていなくて。さっきから仰っている『夫』だとか『あの男』って、なんのことでしょうか?」
率直に尋ねれば、ゾフィー大公妃はますます不機嫌そうに口をへし曲げてしまった。そしてこの上なく苦々しい口調で言う。
「私にあの男の名を言わせるつもり!? メッテルニヒよ! 人の心がないあの悪魔よ! 行政官になりたいツグミの希望に付け込んで無理やり結婚したあげく、あなたがあの男のド変態な趣味のせいで男装させられていたと聞いて、吐きそうになったわ!」
怒りのあまりついに手に持っていた扇を床に叩きつけたゾフィー大公妃の言葉を聞いて、私はしばらくポカンとしたあと、大混乱に陥った。
「――え? え? えええええええっ!?」
彼女はいったい何を言っているのだろうか。私が結婚? クレメンス様と? ってか、ド変態な趣味って何!?
激怒しているゾフィー大公妃と大パニック状態の私のせいで部屋が異常な雰囲気になったとき、扉がノックされて「宰相閣下がお見えです」と侍従の声が聞こえた。
「開けないでちょうだい! その男を私の部屋に入れることは許さないわ!」
咄嗟にゾフィー大公妃が叫ぶと、扉の向こうからは冷静なクレメンス様の声が返ってきた。
「大公妃殿下。失礼ながらこちらに私の妻が伺っているかと。間もなく医師が怪我の様子を診にくる時間ですので、妻をお返しいただけますでしょうか」
余裕しゃくしゃく、歌うようにそう申し出たクレメンス様の扉越しの声に、ゾフィー大公妃は顔を真っ赤にしてソファーから立ち上がる。
そしてツカツカと部屋の入口まで行くとすごい勢いで扉を開いた。



