「すみません、上手く聞き取れませんでした。どなたが私の怪我を殿下にお伝えに来たのですか?」
「だから、あなたの夫よ! ああ、もう! また腹が立ってきたわ! ツグミ! 私はあなたのことが大好きだけど、そのことだけは納得がいかない! 私が教皇庁にかけあってあげるから今すぐあの男と別れなさい!」
「え? え、え?」
まったく話が見えなくてオロオロとする私に業を煮やしたのか、ゾフィー大公妃は私の手を掴むと大股で廊下を歩き自室の居間へと連れ込んだ。そしてふたりきりになった部屋でソファーに向かい合って座り、まるで尋問のように詰め寄る。
「ツグミ。私はね、あなたの性別については非難する気はないの。……心のどこかでなんとなくそんな予感はしていたもの。あなたからはまったく男性の威圧的な気配がしない。だから私も心を開けていた部分があったのだと思うわ。それを隠していたことは不敬だけれど、皇帝陛下がお許しになっていたのなら私が怒る筋合いもないし。……でもね、あなたにそれを強いていたあの男だけは許せないわ。本当に、どこまで人の人生を弄べば気が済むのアイツは! ウィーンに巣食う悪魔よ!」
「え……えーと、あの……」
どうやら思った通り、私が女だということはすでに宮廷中の周知のことのようだ。
性別を偽って本来なれない行政官になったりして、詐称のうえ王族に対する不敬でもあるのだから国外追放になってもおかしくないのだけれど……ゾフィー大公妃の口ぶりから察するに、そうはならないみたいだ。
というか、皇帝陛下がお許しになっていたってどういうことだろう?
それより何より、さっきからゾフィー大公妃が言っている『夫』だとか『あの男』だとかのことが、意味がさっぱり分からなくて困る。



