「あいたっ」
「明日から俺の仕事についてきな。ウィーン流の政治ってやつを、その細っこい身体に叩き込んでやるよ」
頼もしそうに眉を吊り上げて笑ったゲンツさんを見てポカンとする。振り返るとメッテルニヒさんも目を細めて深く頷いていた。
つまり私……ゲンツさんに弟子入りしたってこと? しかも男として?
どういうつもりなのか、メッテルニヒさんの考えていることがさっぱり読めない。
不安しかないけれど、とりあえず愛想笑いを浮かべ改めてゲンツさんに「ご指導よろしくお願いいたします」と頭を下げておいた。
夕方になってゲンツさんが帰ったあと、私はメッテルニヒさんの執務室にすぐさま押し掛けた。
彼は私がくるのを待っていたとばかりに、窓際にこちらを向いて立っていた。西日が部屋をオレンジ色に染め彼の美しい輪郭に濃い影を落とし、まるで一枚の油絵みたいに彩っている。
何をしていても絵になる美丈夫だなあと感心しながら、私は彼の前まで行った。
けれどメッテルニヒさんは私が何を言いたいかも分かっているのだろう。窓枠に背を預けながら促すようにこちらに手の平を差し向けた。
「政治の舞台では誰しもが答えを教えてくれるとは思わない方がいい。情報の欠片から自分で推測する術を身につけなさい」



