元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
彼の体調はあきらかに悪化している。心配していた通り、過酷な軍事練習が体に負担をかけているのだ。

けれど、あんなに張り切っている彼から軍人としての生活を取り上げるのはあまりにも酷というものだろう。

体力と気力、どちらが彼にとって重要で守るべきものなのか、もはや私には判断がつかなかった。

「夏前に、公式式典の先導をハンガリー第六十連隊に任せるよう、私から陛下に申し上げてみる。それから大隊長殿は夏季休暇に入ればよい」

ラデツキー将軍の提案を聞いて、思わず「なるほど……」と呟いてしまった。

いきなり彼から生きがいである軍務を取り上げるのではなく、華々しい舞台を飾らせてあげてから、夏季休暇というていで王宮に呼び戻すという考えだ。それならばきっとライヒシュタット公の自尊心を傷つけることもないし、おとなしく王宮に帰ってきてくれるかもしれない。

そのとき、十八時を報せる教会の鐘が街に響き渡った。

「あ、いけない。今夜は大公妃殿下のオペラ観劇にお供しなくちゃいけないんだった。すみません、将軍。僕、先に王宮へ戻りますね」

そう言って私は手綱を握り直すと、ラデツキー将軍の馬と並べて歩かせていた自分の馬の腹を蹴った。馬は勢いよく駆け出し、みるみるスピードを上げていく。

「だいぶ暗くなってきた、気をつけなさい」というラデツキー将軍の声を背に受けて、大通りに出ようとしたときだった。

「あっ!」