元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
青い軍服を着て白馬に乗り指揮を執るライヒシュタット公の姿は、まるで一枚の絵画のように美しかった。

ホーフブルクの美術館に十六世紀の神聖ローマ帝国皇帝カール五世の騎馬姿の肖像画が飾ってあるが、凛々しさがよく似ている。やはりライヒシュタット公もハプスブルク家の末裔なのだなあと、しみじみ感じながら訓練の様子を遠目に見ていたときだった。

「これはこれは、こんなところに珍しいお客様だ」

背後から声をかけられ驚いて振り向くと、そこには後ろ手を組んで私を見上げているラデツキー将軍が立っていた。

「ラデツキー将軍! ご無沙汰しております」

慌てて馬を降り礼をすれば、「こちらこそ。遅ればせながら大公妃秘書官長就任、おめでとうございます」と頭を下げ返されてしまった。

王族の秘書官、それも秘書官長ということもあって、私の王宮での地位は以前よりずっと高くなっている。行政に実際携わるという点では宰相秘書官の方が大きかったけれど、こんな風に年上の人にへりくだられると、大公妃の側近という立場の強さを実感せざるを得ない。

「ありがとうございます。でも自分では相変わらずひよっこの文官だと思っております。まだまだ努力邁進せねばならない立場ですので、これからも変わらぬご指導ご鞭撻をお願いいたします」

改めてもう一度頭を下げれば、ラデツキー将軍の顔がどこか和むように綻んだ。

「大公妃秘書官長になっても、あなたは変わらないな。少し安心した」

私がゾフィー大公妃の秘書官になったことには、ずいぶん色々な噂や憶測が飛び交った。ラデツキー将軍も私の真意が見えず、もしかしたらどう接するか少し迷っていたのかもしれない。