元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
アルザー通りの司令本部は、本当にホーフブルクの目と鼻の先にある。馬を走らせれば三十分もしないで着くところだ。

ゾフィー大公妃に頼まれた私はさっそく翌日の昼に、馬を走らせ単身で司令本部へと向かった。

この世界へ来て六年。すっかりひとりで馬も乗りこなせるようになっていた。

最初は馬車ばかりだったけれど、急いでいるときは小回りの利く馬の方が勝手が良い。

馬の乗り方はラデツキー将軍に教わった。基本、馬は軍人と労働者の乗り物なので兵役についていない文官や大臣、狩猟をしない貴族には乗れない人も多い。そしてクレメンス様もゲンツさんもあいにく馬を駆ることは得意ではないらしいので、私の乗馬の師はラデツキー将軍となったのだ。

将軍仕込みの乗馬技術のおかげで今や軍人並みに馬を扱えるようになった私は、大公妃秘書官長になったときゾフィー大公妃からお祝いに送られた鹿毛馬に乗って、颯爽とウィーンの街を駆け抜けていった。

司令本部につくと、中は空っぽだった。留守番に残されていた兵士が、ライヒシュタット公の軍隊は郊外の広場へ訓練に行ったというので、そちらに行ってみた。

住宅街を外れた広場は軍事練習場になっており、その一角で騎兵と歩兵が行進の練習をしている姿が見えた。

「第一小隊、前へ進め!」

馬上でサーベルを掲げ隊を率いているのはライヒシュタット公だ。どうやら公式式典の練習をしているらしい。

(うわぁ……格好いいなあ)