元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
四月。ライヒシュタット公が王宮を出てアルザー通りの兵舎へ行ってしまってからというもの、ゾフィー大公妃は少し寂しそうだ。

「ホーフブルクから少ししか離れていないとはいえ、やっぱり宮殿にいるのといないのとでは全然違うわ。ちっとも顔を合わせられやしない。おまけに兵舎での暮らしが楽しいらしくて、最近では訓練が休みの日でさえも王宮に帰って来ないのよ」

私をお茶の相手にしてつまらなさそうに唇を尖らせるゾフィー大公妃は、まるっきりおいていかれた恋人だ。なんだか可愛らしいなあと思って、ついクスッと笑ってしまう。

「良いことではありませんか、それだけお元気になられたということです。それに、ウィーン市内とはいえ、初めて王宮を出て独り立ちされたのです。嬉しくて兵舎での生活に夢中になるのも仕方ありません。喜んでさしあげましょうよ」

「それは分かっているけれど……」

薔薇の絵がついた磁気のティーカップを両手で包んで、ゾフィー大公妃は悲しそうにひとつ溜息をついた。

「少し心配だわ。フランソワって尋常じゃない努力家だから、張り切りすぎて身体を酷使しているんじゃないかしら。ねえツグミ、司令本部へ様子を見にいってくれない?」

よほどライヒシュタット公のことが気になるのだなと思いつつも、私も彼女と同じ不安を抱く。

「そうですね。大丈夫だとは思いますが、一応ご様子を見てきます。それから、大公妃殿下が非常に寂しがられていることもお伝えしてきますよ」

そう言って微笑むと、ゾフィー大公妃は「余計なことは言わなくていいわ!」と顔を赤くしながらも、嬉しそうにはにかんで笑った。