「さあて、ツグミも僕らの味方についたことだし、改めて計画を立てなくっちゃな」
大公妃秘書官長になった報告を兼ねて彼の見舞いにきた私は、テーブルの上に山のように積まれた戦史研究書と諸外国の兵法の本に密かに目を瞠った。
「これ……全部読まれたんですか?」
「うん。だって、身体動かせなくて暇だったから。来月にはアルザー通りの兵営に移って訓練を始めるんだ。せっかく大隊長に任命されたのに、ボーっとしてる訳にはいかないだろ?」
ベッドに腰掛けていたライヒシュタット公は立ち上がってテーブルの研究書を一枚手に取ると、眩しそうにそれを眺める。
その瞳にはかつての憂いの色はなく、彼が絶望の淵から這い上がり再び前を向き始めたことが伝わってきた。
それはとても素晴らしいことなのだけれど、やはり私には素直に喜べない。
「でも、軍隊での生活は過酷だと聞きます。その……お身体は大丈夫なのですか?」
不安そうに眉を顰めて聞いた私に、ライヒシュタット公はケロリとした口調で答えた。
「ぜーんぜん平気。みんな心配しすぎなんだよ、ちょっと咳が出たくらいでさ。こっちは十七歳の男子だよ? 体力が有り余ってるんだ、早く軍事訓練に出て思いっきり身体を動かしたいよ」
ただし、一度もこちらを見ずに。
「そうですか……でも無理はなさらないでくださいね」



