この世界に来て六度目の春。私の肩書が変わった。

――大公妃秘書官長。

それが、私が新しく得た職務と肩書だった。

私がクレメンス様のもとを去ったことを知ったゾフィー大公妃が、すぐさま自分の側近にと任命してくれたのだ。

宰相秘書官をやめ大公妃秘書官長になった異国の青年の話題は、しばらくウィーンを沸かせた。メッテルニヒを裏切ったボナパルティズム支持者だと後ろ指を指されることも多かったけれど、私はこれでよかったと思う。

「正解よ、ツグミ。私を選んだあなたは間違っていないわ。私はこの先、未来の皇帝の母になってオーストリアで強大な権力を持つんですもの。あなたは私の片腕になるの。そして私の子が皇帝の座に就いた日――あなたはオーストリアの宰相となるのよ」

大公妃の書斎に私を呼び寄せて、彼女はそう言って微笑んだ。

ゾフィー大公妃。将来、皇位継承一位のフランツ・ヨーゼフを生み、オーストリアの陰の支配者としてその名を轟かせる。舞台の裏から政治を仕切る辣腕ぶりは、かのマリア・テレジアにも匹敵すると言われ、女傑の異名に相応しい。

有能なボスに仕えたい。それが私の第二の人生での望みだ。

ゾフィー大公妃はこの身を尽くして仕える価値がある。私の夢はまだ終わっていない。

ゾフィー大公妃に仕え、ゆくゆくは宰相になりオーストリアと新しい皇帝に尽くす。そしてヨーロッパを真の平和に導いてみせるんだ。もう誰も……王族も平民も、国のために犠牲になって泣いたりしないですむように。

「はい、ゾフィー大公妃殿下。僕はあなたと未来の皇帝に忠誠を誓います。そして必ずや――宰相になってみせます」

――これでいいんですよね? クレメンス様。私のやり方でヨーロッパの真の平和を目指す。それがあなたの望んだことなのですから。

胸に手を当て深く頭を下げると、鼻の奥がツンとした。

私の新しいボスは「頼もしいわね。期待してるわよ」と微笑んでくれたけれど、私は泣き顔にならないよう必死で無様な笑顔を浮かべることしかできなかった。