元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
次の瞬間、窓の外が光り耳をつんざくような大きな音が部屋に響いた。

近くに雷が落ちたのかと思ったけれど、音の正体は違った。クレメンス様がそばにあったテーブルの上の花瓶を力任せに払い落したのだ。

床には青い陶器の欠片が散らばり、白と紫のロベリアが無残に散らかった。

「残念だよ、ツグミ。きみならば分かってくれると思ったが、私の見込み違いだったようだ」

花瓶を払い落とすなど過激な行動をしたとは思えないほど、クレメンス様の声は落ち着いていた。

ずっと背を向けている後ろ姿からその表情は伺えなくて、彼が激昂しているのか冷めているのか、判断がつかない。

「ベルギーとポーランドの独立は私の、ウィーン体制の失態だ。これ以上ヨーロッパに革命の飛び火をさせる訳にはいかない。これからは今まで以上に革命を警戒し弾圧を強くしていく」

「それは……分かっています。けど、力任せに弾圧を繰り返すことは本当の平和なんですか? 革命が起こるということは誰かが我慢を強いられている証拠です。その人たちの声を掬い上げて共存していくことが、本当の平和につながるんじゃないですか?」

「その結果が三十年前のフランス革命だ。どれだけの王侯貴族の血が流れ、多くの庶民までもが恐怖政治でギロチンに掛けられたと思う。挙げ句の果てに革命はナポレオンという悪魔を生み出した。あれだけの犠牲を出し誰もが戦争を忌避したというのに、痛みを忘れた人間たちがまた愚かなことを繰り返そうとしている。きみが庇うライヒシュタット公爵だってそうだ。革命が、戦争がなければ彼は違う人生を歩んでいた。彼を孤独に追い込んだのは革命と戦争だと、どうして分からない?」

クレメンス様の言葉に、私は口を噤む。