――誤算。ゾフィー大公妃から見たらこの状況は誤算としか言いようがないだろう。

「フランスが動き出す前にギリシャ王就任の承認を得るはずだったのに、まさか革命がこんなに早く起きるだなんて」

計画が頓挫したゾフィー大公妃は、悔しそうに何度もそう嘆いた。

それでも、機を窺っていれば再びチャンスは訪れるとプロケシュ少尉と励まし合い気を取り直そうとしていた彼女に、さらなる悲劇が襲う。

それは、春まだ遠い二月の終わりの頃。

プロケシュ少尉が突然ボローニャの教皇庁大使に派遣されることになったのだ。

ウィーンを離れ遠いイタリアのボローニャに遣わされること。それはつまり、プロケシュ少尉をライヒシュタット公から引き離すことを意味していた。

フランスの革命と違い、今度の出来事は偶然ではない。明らかに人の――言うまでもなく、クレメンス様の――意思が介入している。

ライヒシュタット公の動向に目を光らせていたクレメンス様はとっくに知っていたのだ。プロケシュ少尉の存在がライヒシュタット公のボナパルティズムを煽り、ゾフィー大公妃の計画にとっても大きな味方になっていることを。

政治や思想的な繋がりを抜きにしても、プロケシュ少尉とライヒシュタット公は親友同士だった。

同年代の親友と存分に好きなことを語り、遊び、ふざけ合い、ときに夢を語り合った時間は孤高のライヒシュタット公にとってかけがえのないものだったに違いない。

プロケシュ少尉の転任が決まってから、ライヒシュタット公は明らかに元気を失っていった。