「ツグミはいい奴なんだけど、〝M〟のこと好きなのが玉にキズだよなあ。親戚とはいえ、あんな冷血人間のどこがいいんだか」

お行儀がいいとは言い難いその姿は、まるっきり普通の少年だ。さっきまでの竦みあがるような威厳はどこへやら、ライヒシュタット公は子供のように拗ねた表情を浮かべた。

「仕方ないわ。異国から来たツグミにとって、〝M〟は家族も同然なんでしょう。ごめんなさいね、あなたを不快にさせるようなことを言って」

場を治めようとゾフィー大公妃が眉尻を下げて微笑むけれど、どこか鼻白んだ雰囲気が漂う。

思いきって手の内を明かしたというのに、私が完全な味方にならなかったことが期待外れだったのだろう。

「ツグミ。私達はあなたを大切なお友達だと思っているわ。できることならばずっと、この友情が続くことを願いたいの。分かるわよね?」

「……大丈夫です。ここで聞いた話は他言しません。約束します」

立ち上がったまま椅子に座り直す気配を見せない私に、ゾフィー大公妃が暗に「敵になるな」と釘を刺す。

するとライヒシュタット公がニッと口角を上げて笑い、こちらへ向かって小指をつき出した。

「大丈夫だよ、ゾフィー。ツグミは約束は守る奴だ。じゃないと針千本飲まされちゃうもんな?」

「針? なあに、それ?」

得意そうなライヒシュタット公と小首を傾げるゾフィー大公妃を見て私は小さく笑うと、「ええ。必ず守ります」と小指を見せてから、一礼してその場を去った。