「ツグミ殿。俺は不思議でたまりません。なぜウィーンの宮廷はライヒシュタット公のような才能あふれる王子をオーストリアに閉じ込めたままにするのですか? 彼はもっと世界へ出ていくべきです。軍の司令部に入ったっていい、ヨーロッパ中を旅して見聞を広めるのでもいい。各国の要人が集まる会議に出席もするべきだ。ライヒシュタット公をオーストリアの外に出すべきだと、俺は強く思います」
やはりプロケシュ少尉の意向もゾフィー大公妃と同じものだった。
ライヒシュタット公を世界に羽ばたかせるべきだ――その想いは分からなくはない。けれど。
「気持ちは分かります。僕も……ライヒシュタット公をオーストリアに閉じ込め続けるのはあまりにも……やりすぎではないかと思っています。けど、残念ですが僕にはどうすることもできません。僕はただの秘書官です。陛下にお願いすることなどとてもできませんし、万が一できたところで取るに足らない者の話だと歯牙にもかけられないでしょう。僕は……ライヒシュタット公のお力にはなれません」
ゾフィー大公妃の思惑がどうあれ、今の私に事態を変える手助けはできない。
プロケシュ少尉が私に何かを期待していたのなら悪いなと思いながらも素直に告げたけれど、彼の顔に落胆の色は見えなかった。
「大丈夫よ、ツグミ。プロケシュ少尉も私達も、あなたにそんなことを頼むつもりはないわ」
「え?」
言葉を返したのはゾフィー大公妃だった。彼女の明るい色を塗った唇が、含みを持って半月型に笑う。



