「ツグミ・オダ=メッテルニヒです。お会いできて光栄です」
握手を交わす私達を見て楽し気な笑みを浮かべたゾフィー大公妃が、言葉を付け加えた。
「プロケシュ少尉のお父様は昔フランス軍に所属していて、マレンゴの戦いに参加されていたんですって」
それを聞いて、私は何故この青年がここにいるのかを瞬時に悟った。と同時に、背筋がヒヤリと冷える。
マレンゴの戦いは、1800年にイタリアのマレンゴでナポレオン率いるフランス軍がオーストリア軍を打ち破った戦いだ。雪山を超えて敵の意表をつくという大胆な作戦と、北イタリアを巡る対仏墺戦争に決着がついたことで有名で、いわば“英雄”ナポレオンを語る上で欠かせない戦いである。
その頃はまだ傭兵時代の名残があって、一兵卒はどこの軍に所属するか選べたらしい。だからこのように父がフランス軍で息子がオーストリア軍人などという不思議なことも多々あるそうだ。
「去年公務でグラーツへ行ったときに、彼の方から僕に会いに来てくれたんだ。それから意気投合しちゃって、今でもこうして時々ウィーンに遊びに来てもらってるんだよ」
お皿のクッキーをひとつ齧りながら、ライヒシュタット公が上機嫌に言う。するとプロケシュ少尉もうんうんと頷いて、言葉を続けた。



