以前、セルドニキさんが魅力の大きすぎる人間は怖いとライヒシュタット公のことを語っていたことがあった。今ではその言葉の意味が痛いほどよく分かる。
職務――いや、秘書として生きると決めた運命さえ超えて、私はライヒシュタット公の自由と幸福を願わずにはいられない。
これが神に愛された人間の魅力かと、恐ろしくさえ思う。
ゾフィー大公妃の味方になって協力したい。けれど、私はクレメンス様を裏切りたくない。私に第二の人生を与え、ヨーロッパの平和のために尽力するあの人を、裏切ることはできない。
瞼を閉じれば、さっき私に向けてくれたクレメンス様の笑顔が浮かんでくる。
『きみを秘書にしてよかったと思うよ』
――嬉しかった。彼の側にいてもいいんだと認められたみたいで。ずっと疲れていた彼の顔が安らぐように綻んだことが、本当に本当に嬉しかった。
この胸がときめくだけで終われたなら、どんなに幸せだっただろう。
クレメンス様を好きになるたび、尊敬するたび、私の心は茨に絡めとられ、ふたつに千切れそうになる。
もう一度大きく息を吐き出して、私は閉じていた瞼を開いた。
窓の外では冷たい夜風が庭木を揺らし、黄色く染まった葉を空へとさらっている。
冬はもう、すぐそこまでやって来ている。



