『あなたはこの帝国の宰相におなりなさい』
あの日――ゾフィー大公妃に言われた言葉が、ずっとずっと私の胸を締めつけ続けている。
ゾフィー大公妃に味方になれと誘われてからもうすぐ一年が経つけれど、私はまだ返事ができないでいた。
それでも彼女は急かすこともなく、相変わらず友達のように接してくれている。あどけない笑顔からは想像できないほど大きな野心を抱えて。
……断るべきだと分かっている。彼女が企んでいることはウィーン体制の崩壊へと繋がりかねない。
今もゾフィー大公妃が後押ししたおかげでライヒシュタット公はどんどん世界の表舞台へ出ていき、その影響のせいでクレメンス様が手を煩わせる事態になっている。
現状、クレメンス様が苦しんでいるのは彼女のせいと言っても過言じゃないのだ。
だったら私は――彼の秘書である私は、ゾフィー大公妃を敵とみなすのが正しい。
未来の宰相だなんてとんでもない。それはクレメンス様に対するこの上ない裏切りだ。
そう頭では分かっているのに……私の心は迷ったまま動けないでいる。
ライヒシュタット公を自由に生きさせてあげたい。彼の才能を世界で羽ばたかせてあげたい。どうしてもそう願ってしまう心が消せない。



