せっかくだからセットで出してあげたかったけれど、やっぱりウィーンで手に入れるのは難しかったことを残念に思う。するとクレメンス様は私の言葉を聞いて、ぱちくりと瞬きを繰り返した。
「……もしかして、きみが手配してくれたのか? 私の故郷がコブレンツと知って、ツヴィーベルクーヘンを」
「えっと……手配したっていうか……、私が作りました。公邸の料理人はみんな帰っちゃってたし、従僕や女中も作り方知らないって言うから……」
オーブンの火だけ調整してもらい、あとは電子辞書で作り方を調べながら試行錯誤で作ったのである。
こっちの世界に来てから五年ぶり、しかも初めての料理。上手くいくか心配だったけれど、日本にいたとき自炊していた腕が役に立った。ツヴィーベルクーヘンの中身はバターで炒めた玉ねぎとベーコンに、チーズやサワークリームを加えたシンプルなフィリングなので、タルト生地さえきちんと焼き上がれば難しい料理でもない。
お皿の上でタルトの残りがわずかになったところを見ると、味も悪くはなかったのだろう。そう願いたい。
「作っただと? きみが?」
そう言って私とお皿のツヴィーベルクーヘンを何度も見たクレメンス様は、しばらくポカンとしたあと、肩を竦めてククッと笑い出した。



