昼に官邸を出ていったときよりさらに濃く疲労の滲んだ顔を見て、ますますクレメンス様の体調が心配になってくる。
クレメンス様は侍従に着ていた外套を手渡すと「コーヒーを執務室に」と命じた。それを聞いて私も侍従も目を丸くする。
「お休みになられないんですか?」
「今夜中に目を通しておきたい書類が幾つかある」
「それなら僕も何かお手伝いします」
「大丈夫だ。きみはもう休みなさい」
心配をかけまいとしているのか、疲れた顔を微笑ませるクレメンス様の姿に胸が締めつけられる。
執務室へと向かって行ったクレメンス様の背を見送ってから、私は邸の厨房へと足を向けた。
それから十数分後。
淹れたてのコーヒーとタルトの載ったトレーを持って、執務室の扉をノックした。
「夜食をお持ちしました」
「なんだ、部屋に戻ったんじゃないのか。しかも、そんな侍従の真似事などしてどうした?」
湯気の立つトレーを運んできた私を見て、クレメンス様が書類を手にしたまま目をしばたたかせる。



