ただ、不眠不休なのも心配だけれど、それ以上に心配なのはゲンツさんの言う通りストレスだ。最近のクレメンス様の眉間には常にしわが刻まれているように見える。
はっきり言って今の状況はクレメンス様にとって逆境だ。革命を許さないウィーン体制がほころびを見せ始めている。正念場ともいえるだろう。
「……少し痩せましたよね、クレメンス様。今日もお昼食べないで本宮殿行っちゃったし」
「こういうときこそ飯はしっかり食うべきなんだけどな。面倒ごとが多くて、飯を味わう余裕もないんだろ。ぶっ倒れなきゃいいけどな」
ゲンツさんの言葉を聞いて、私まで眉間に皺が寄ってしまう。
クレメンス様は人に弱みを見せることがない。面倒な状況に陥ってもあからさまに不満を口にすることもなければ、嘆くことも文句を言うこともなく淡々と自分のするべきことを考え処理するだけだ。
(……たまには愚痴くらい吐いてもいいと思うんだけどなあ)
クリームとブランデーを入れたコーヒーを口にしながら、私は自分の不甲斐なさに密かに落ち込む。こんなとき秘書としてボスの苦悩を救えないことが、なんとも歯がゆい。
「あいつはカッコつけだからなあ。たまにゃ浴びるほど酒飲んで、言いたいこと全部ぶっちゃけりゃいいんだよ。俺たち相手なら構わないじゃねえか。ったく、冷てえ奴だよ」
不満そうにブツブツと呟いたゲンツさんを見て、彼も私と同じ気持ちなのだと思った。
いや、もしかしたら私以上に自分を頼ってくれないクレメンス様にもどかしさを覚えているのかもしれない。ふたりの付き合いは十年以上に及ぶうえ、宰相と秘書という関係を超え親友に近いものなのだから。



