そのとき、ライヒシュタット公に祝福を述べる大公達の隣に並ぶゾフィー大公妃の姿が目に入った。
ゾフィー大公妃は達成感に満ちた晴れ晴れとした笑みを浮かべながらも、青い目の奥は笑っていない。それどころかライヒシュタット公を囲む人々を見る眼差しには、恐ろしいほどの敵意が籠もっているように見えたのは……私の気のせいだろうか。
ライヒシュタット公が大尉に就任したことで世間の注目はますます大きくなり、クレメンス様が危惧した通り“ナポレオン二世ブーム”がさらに過熱して問題を生み出した。
大きな騒動のひとつ目は、ある日ゲンツさんが目を白黒させながら宰相官邸に持ってきたビラで発覚した。
『ライヒシュタット公爵、ポーランド国王に就任』
大きな文字でそう書かれたビラには、ライヒシュタット公はポーランドのクラクフという都市ですでにポーランドの政治家達と会談を済ませたと記されていた。
当然、根も葉もないデマである。ライヒシュタット公は相変わらずオーストリアから出ることを許されていないのだから。
ポーランドの王にナポレオン二世を望む人達が作ったデタラメなビラではあるけれど、これがワルシャワはじめポーランド中にばらまかれたというのだからやっかいだ。すでにこの情報を掴んだロシアからも使いの者が真意を確かめるため、オーストリアまですっとんできたという。



