クレメンス様はライヒシュタット公の大尉叙任に激しく反対していた。

今、ヨーロッパでは独立を果たした新しい国の王にライヒシュタット公を迎えたいという声が盛んになってきている。

当然クレメンス様はじめオーストリアとしてはそれを許すことはできない。革命を起こし独立を果たした国の王にナポレオンの子を据えるなどしたら、ヨーロッパはますます革命に沸くことになってしまうに決まっている。

ウィーン体制の中心人物であるクレメンス様としては、できることならば今まで以上にライヒシュタット公を王宮の奥深くに閉じ込めておきたいところだ。

ましてやこのタイミングで大尉に叙任などとんでもない話である。ライヒシュタット公を一人前の軍人と認めることは、彼を一人前の大人と認め表舞台へ出すことと同義なのだから。

けれど、クレメンス様の必死の説得も、加熱していくライヒシュタット公支持の声の前には通用しなかった。

ライヒシュタット公は去年の三色旗事件以来、フランス語だけでなくラテン語や国家学、国際法まで様々な分野の学習にも力を入れ出した。元々勉強熱心で頭の良い子なのだ、もはや大人以上に知識量は増え、指導者の立場に回ってもいいほどの学問を彼は身につけた。

それだけではない、身体を鍛え軍事鍛錬にも励んだ。背は高いものの少年らしい華奢さを残していた身体はどんどん筋肉をつけていき、もはや子ども扱いが憚られるほど男らしく逞しい。

……すべてはゾフィー大公妃の賜物だろう。彼女はライヒシュタット公を本格的に育て上げようとしている。未来の王にするために。

そしてその結果、ついにウィーンの宮廷内からもライヒシュタット公に大尉の叙任をという声が上がり始めた。