「……僕は、……僕は……」

鯉のように口をパクパクさせながら声を絞り出そうとする私に、ゾフィー大公妃はクスクスと笑って両肩をポンポンと叩く。

「今すぐ返事をしなくてもいいわ。考える時間が必要だものね。でも、私はあなたのことを信じているわ、ツグミ」

その微笑みは自信に溢れ艶やかで――人心を掴む“女傑”の顔そのものだった。



その半年後、1827年一月。
私の目の前でまたひとつ歴史が大きく変わった。

ギリシャを支援していたオーストリア、イギリス、フランス、ロシアがトルコ艦隊を破り、ついにギリシャの独立が決まったのだ。

しかしギリシャの独立は結果的に革命家達の士気を上げることとなってしまい、相次ぐようにオランダからベルギーが独立し、ロシアからはポーランドが独立してしまった。

すべて私の知る歴史より三年も早い出来事だった。

そして、ヨーロッパ中でまことしやかに囁かれ始める。「新たな国の王座にライヒシュタット公を迎えよう」と。

まるで鷲の子の目覚めに呼応するように、歴史がうねり動き出そうとしていた。