「ツグミ。私達の味方にならない? あなたは“M”の親戚だけれども、信頼できる友達だわ」

「――っ!? た、大公妃殿下……!?」

背筋がゾッとした。神様か悪魔か分からないけれど何かが背を撫でた気がして、心臓が狂ったように早鐘を打ち始める。

「私は皇帝の母としてこの国で力をつけていく。古い体制はいずれ崩壊して、これからは私やフランソワの時代になっていくのよ。そして私の子が帝冠を戴いたとき。あなたはこの帝国の宰相におなりなさい。新しい時代のオーストリアを支えるために」

「私が……宰相……?」

自分の声が掠れ震えているのが分かったけれど、どうにもできなかった。

乱れそうになる呼吸を整えるのが精いっぱいで、動揺を隠す余地もない。

頭の中でこの世界に来てからのことが早送りのように思い出される。

終わったと思った人生がまさかの異世界トリップで再び幕を開けたこと。私を救い新しい名前と人生を与えてくれたクレメンス様のこと。ナポレオンとの大戦が終わって平和を享受しているヨーロッパのこと。ヨーロッパの未来と平和のために粉骨砕身しているクレメンス様と各国の要人達のこと。フランツ一世陛下とパルマ公とライヒシュタット公のこと。そして、ゾフィー大公妃のこと。

いつからか胸に根付き膨らみ続けてき違和感が、首をもたげて私に囁く。

(――ヨーロッパを平和に導くことは正しい。けれど、クレメンス様のやり方は正しいの? パルマ公を国のために犠牲にし、ライヒシュタット公を王宮に閉じ込め、ゾフィー大公妃からも子を奪おうとしている。ハプスブルク家の人達から愛を奪い続けるクレメンス様のやり方は正しいの? 私なら――未来を知っている私ならば、きっともっと上手く出来る。ヨーロッパを平和に導きながら、誰も泣かないで済むやり方が、必ずあるはず――)と。