「ならば何故……ライヒシュタット公はフランス語を学びたいと思うようになったのでしょうか?」
三色旗事件以来、彼がフランスのナショナリズムに目覚めてしまったのではないかと危惧する私に、ゾフィー大公妃は思いも寄らない言葉を返した。
「私が勧めたのよ。いけない?」
そう言ってこちらを向くゾフィー大公妃の瞳には、いつか見た力強い炎が宿っていた。愛する人の力になりたいと願う、あの力強さだ。
「……私ね、お腹に赤ちゃんが宿ったときから考えるようになったの。私の子は大きくなったらきっと、オーストリアの皇帝になるんじゃないかって」
衝撃の告白に、私は黙ったまま目を瞠る。
今まで子供っぽい感情の陰に隠れてしまっていたけれど、ゾフィー大公妃はやはり聡明な頭脳の持ち主なのだ。彼女にはこの先のオーストリア帝位の行方がすでに見えている。
「私の子が王座についたとき、その隣にはフランソワがいて欲しいと思ったの。私の子とフランソワのふたりが、いつの日かオーストリアを牽引していくのよ。そのために彼はもっとたくさんのことを学ばなくてはいけないの。彼にはその素質がある、世界中を飛び回って魅了できる強い翼があるのよ。私は彼をこの鳥かごから解き放つわ」
……耳を疑った。
まさか、てんで幼いと思っていたゾフィー大公妃がそんなことを考えていただなんて。きっとこの王宮の誰もが予想もしていないだろう。



