ここ最近、クレメンス様がピリピリしているように見えるのが気のせいではないと分かったのは、久しぶりにゲンツさんとふたりで食事へ行った日のことだった。
「ついに接触しちまったらしいぜ。チビナポとボナパルティズムの奴らが」
いつものようにお気に入りのトカイ・ワインを口にしながら、ゲンツさんが小声で言う。
私は思わず「えっ!?」とあげそうになった声を無理やり呑み込んで、テーブルに前のめりになって小声で尋ねた。
「いつですか? どこで? だって彼の行くところはいつだって秘密警察が護衛してるじゃないですか」
あのセルドニキ警視総監が万全を尽くしてボナパルティズム運動家を警戒しているのに、どうしてそんな事態になってしまったのか。疑問と驚きが止まらない。
「接触って言っても言葉を交わした訳じゃねえ。劇場に向かうチビナポの馬車に、三色旗が投げ込まれたそうだ。『鷲の子を王座に』って手紙と一緒にな」
鷲の子――その懐かしい響きにハッとする。
彼の正体が分かった今ならば意味が分かる。鷲の子、それは鷲を紋章としていたナポレオンの子供という意味だ。
そして言うまでもなく三色旗はフランスの――フランス革命で勝ち得た『自由・平等・友愛』の証である。
三色旗に鷲の子……。ウィーン体制にとってこれほど脅威で忌まわしい印はない。



