ライヒシュタット公は再び窓の方を向き窓枠に頬杖をつくと、遠い夕焼けに目を細めて詩の続きを紡いだ。
「神は心温かくも私を王座に連れてきた 私は知らない 父の名がなんと言うのかを それなのに私は王の息子なのだ」
声変りを終えた声に少年の頃の透明感はないけれど、力強い芯を持ちながらも柔らかなそれは、夏の眩しい夕日と溶け合うように切なく力強く胸に響いた。
「ドイツの戯曲『ドン・カルロス』だよ」
西日のオレンジ色に顔を染め、ライヒシュタット公が私を振り向いて微笑む。
その戯曲の詳しい内容は知らないけれど、孤高な詩はまるで彼のことを綴っているみたいだ。もしかしたら本人も自分を重ねて口ずさんでいたのかもしれない。
そのとき、窓の外で庭の樹から大きな鳥が飛び立つのが見えた。
シェーンブルン宮殿は狩猟公園の森が近いから大型の鳥もチラホラ見かける。あれは確かヨーロッパハチクマだっけ、鷲の仲間だと以前ゲンツさんが言っていたような。
「――ねえ、ツグミ」
再び窓の外に顔を向け直して、ライヒシュタット公が呟くように私に呼びかける。
「鷲は大空へはばたくべきだと思わないか。彼の翼は王者の翼だ。彼が大空を飛ぶのは神が示した運命だ」
「わ、鷲……ですか?」
唐突に語られた話の意味が理解できなくて、私は首を傾げて「うーん」と悩む。
ただ、話の意味は分からなかったけれど、黄昏の空を飛ぶ鳥を眺める彼の瞳は夕焼け色が反射して、まるで燃え盛る炎を宿しているように見えた。



