「ホッとしてらしたわ。これで子供が男児だったらお互い義務は終わりですもの。もう寝室も別々だから、朝食のときしか顔を合わせていないわ」

なんとドライでタフなのだろうと、私はポカンと目も口も丸くしてしまう。

まあ、パルマ公のときとは違い、不仲であろうと夫は敵でも悪魔でもないのだ。それにフランツ・カール大公は懐妊まではゾフィー大公妃に優しくしていたようだし、状況はまるで違うのだろう。

他に心から慕う人がいるのに別の男性の子を妊娠してケロッとしていられるタフさは私には理解しがたいけれど、それこそ二十一世紀の庶民と十九世紀の王族の感性の差としか言いようがない。

何にせよゾフィー大公妃が心身ともにお元気そうでよかったと、私は密かに胸を撫でおろす。

「お身体を労わって元気な赤ちゃんを産んでください。オーストリア国民も、バイエルンのご家族も、もちろん私も、みんなが赤ちゃんの誕生を心待ちにしていますよ」

微笑んで花束ごとゾフィー大公妃の両手を握りしめれば、彼女は幸福そうに頬を染めて「もちろんよ!」と笑ってくれた。



「クレメンス様。お話があります」

宰相官邸に戻った私は、執務室で書類の決裁をしているクレメンス様に向かって声をかけた。