さっきまで途方に暮れていた思考が、希望に染まっていく。

「よし、私帰らない! 決めた、ここで幸せに生きて見せる!」

勢いよく椅子から立ち上がって叫んだ。自分への決意表明だ。

考えれば考えるほど私はラッキーだ。誰ひとり私を知らない時代と世界に飛んだうえ、ファーストコンタクトの相手がなんと帝国の宰相様なのだから。

もし私を見つけたのがもっと野蛮な人だったら、身ぐるみはがされたあげく身売りされていたかもしれない。そう考えるとメッテルニヒさんに拾われて、本当に本当に良かった。

「神様、これは私にもう一度生きて幸せになれというご慈悲ですね! ありがとうございます!」

希望に溢れた私は思わず手を組んで神様に感謝をささげた。すると、そのタイミングでドアが開きマリアさんが入ってくる。

ひとりで喚いている私に注がれるマリアさんの怪訝な眼差しが痛い。

「……お食事はお済みですか」

「はい……えっと、あの、ご飯が美味しかったので神様に感謝のお祈りを」

「ミサでしたら、後ほど礼拝堂へご案内します」

気まずさを隠そうとヘラリと笑いながら、そういえば昔のオーストリアは熱心なカトリックだったことを思い出す。

私に奇跡を起こしたのは案外本当に神様かもしれないな、などと思いながら、私は壁に飾られている天使の宗教画を眺めた。