「いつも愚痴ばかり聞かせてごめんなさい。ツグミは行政官なのに全然威圧的じゃないし、なんだか女の子みたいで喋りやすいから、つい」

「構いませんよ。僕なんかで大公妃殿下のお気持ちが晴れるのでしたら、幾らでもお話してください」

女子の愚痴というのはどの時代でも同じだなあと思う。女の子は共感が欲しい生き物なのだ。

気心知れた友達に話を聞いてもらって慰めてもらえることがどれほど大切か、同じ女として痛いほどよく分かる私は本心からゾフィー大公妃にそう言った。

「ありがとう! あなたってやっぱり不思議な人だわ。宰相秘書官なんか辞めて、私の秘書官になればいいのに」

大公妃付き秘書官とは光栄な話ではあるけれど、あいにく私は宰相秘書官という仕事に生きがいを感じているのだ。お礼を言いながらも丁重にお断りをすると、ゾフィー大公妃は「残念だわ」と、可愛らしく唇を尖らせて見せた。

「ねえ、私今度イタリアのマントヴァ市に行くの。あなたも一緒に来られないかしら?」

部屋にある長椅子にゆったりと腰かけながら、ゾフィー大公妃は隣に立つ私に向かって小首を傾げた。

「マントヴァ市に? ご公務ですか?」