お腹が膨れると、自分が本当にこの十九世紀オーストリアで生きているのだなと実感する。
「……生きてるなあ、私」
満たされたお腹を撫でさすりながら、天井を見上げてボソリと呟いた。
――あの夜。川に落ちててっきり人生終了したと思ったのに、まさかタイムトリップして生き延びるだなんて。
何か科学的なミラクルが起きたのか、それとも神様の気まぐれな悪戯か、それは分からない。
けれど私は生きているのだ。二百年も時を遡った異国の地で。
(元の時代に帰れるのかな……元の時代で私ってどうなってるんだろう。行方不明?)
両親が心配しているんじゃないかと思うと胸は痛んだけれど、それ以外に心残りはなかった。あの日、私は何もかもを失って自棄になっていたのだから。
(……もしかしてこれって、人生リセットチャンスじゃない?)
ふと、そんな考えがよぎる。あのまま日本にいても、私は告訴され下手をしたら犯罪者の烙印を押されて生きなければならなかったかもしれない。
今までのキャリアも失い、友人知人も離れ、両親も嘆いただろう未来を思うと、タイムスリップをして今ここにいることがものすごくラッキーに思えた。
(か、帰りたくないかも。犯罪者扱いされてあいつらを憎みながら生きるより、この古き良き異国の地で人生再スタートさせた方が百倍マシじゃない?)



