「思い出したわ。結婚パーティーの舞踏会にいらしてたわよね。小柄でヨーロッパ人らしくない顔立ちだったから、気になっていたの」
「はい。その節はお招きくださいましてありがとうございました」
微笑んで頭を下げれば彼女の警戒心はすっかり消えたようで、今度は興味津々といった目で見つめられた。
「あなた、どこの国の出身? 女性みたいに華奢なのね。それに声もあまり低くないし」
「日本という清の東に浮かぶ島国の出身です。僕は小柄ですが、他の男性は皆ヨーロッパの方と大差ない体格をしていますよ。もちろん声も低いです」
「カストラートみたいに去勢をしていないのに、そんなに声が高いの? それってすごい才能だわ! オペラ歌手になればいいのに。私、パトロンになってあげる! ね、フランソワ!」
今まで散々女みたいだと言われてきたけれど、こんな反応は初めてだった。オペラに結び付ける辺り、やっぱり芸術に造詣が深いバイエルン王家の血筋を引いているんだなと感心する。
それにしても、こうして話していると本当にただの女の子だ。品格はもちろん感じるけれど、ライヒシュタット公と同じでそれを鼻にかける傲慢さがない。そういう点でもこのふたりは似ているなと思った。
オペラ歌手になればいいのにと言われた私を見て、ライヒシュタット公が可笑しそうにクスクスと肩を揺らして笑う。
「あはは、そりゃいいや。“M”の秘書なんかやってるより、ずっといい。ツグミ、僕からもおススメするよ」



