「お待たせ、フランソワ」
カシミアのショールを翻しながら小走りに駆けてきたゾフィー大公妃が、私達の前までやって来た。
大きなリボンベルトに裾が三重のフリルになっているピンクのドレスを着たゾフィー大公妃は、今日も若々しく愛らしい。良い家族に囲まれ素直に育ってきたことが分かる、健全な愛らしさが彼女にはある。
「ハンカチは見つかった?」
「ええ、座席の下に。輿入れするときに妹にもらったものだから、失くさなくてよかったわ」
ニコニコとライヒシュタット公を見上げながら話す彼女は、彼氏のことが大好きで仕方ない女子高生みたいだ。
舞踏会のときは彼女の幼さゆえの素直すぎる感情に思わず眉根を寄せたけれど、今はその素直さがなんとも愛おしい。ライヒシュタット公に抱いたのと同じ庇護欲を覚える。
よほどライヒシュタット公のことが好きなのだろう、彼しか目に入っていなかったゾフィー大公妃がようやく向かい側に立っていた私に気がついて「あら」と焦った様子を見せた。
「彼はツグミ・オダ=メッテルニヒだよ。“M”の秘書官だけど、悪い奴じゃない。ちょっと間が抜けてるけど優しくて面白い僕の友達さ」
私を警戒するように後ずさったゾフィー大公妃の背を押さえ、ライヒシュタット公が優しく彼女に説明する。
彼の説明を聞いて少し警戒が解けたのか、ゾフィー大公妃は後ずさるのをやめてじっと私の顔を見つめた。



