それだけじゃない。非常に聡明な彼女は政治にも明るく、やがて『ウィーンでただひとりの男』と呼ばれるほど王宮を仕切る女傑となる。そして……反メッテルニヒの中心人物となり、クレメンス様をこの王宮から追い落とす人物となるのだ。

そんな情報を得ている身としては、はっきり言って彼女の印象は良くない。

いったいどれほどカリスマ性があって女傑然とした人なのか。私は招かれたお祝いの舞踏会で、緊張しながらゾフィー大公妃の姿を人垣から伺い見た。ところが。

「……あれが、ゾフィー様……?」

数多のシャンデリアの煌めきと、着飾った人達で埋め尽くされた王宮の大舞踏会場。その中心で踊るのは、不機嫌なふくれっ面を隠そうともしない、まだあどけなささえ残る少女だった。

(なんか……思ってた印象とだいーぶ違うな)

ゾフィー大公妃の結婚相手であるフランツ・カール大公は、正直あまり冴えない男性だ。二十二歳だというのに覇気がなく、オドオドとしている。

そんな彼のリードはなんとも頼りなく、ゾフィー大公妃が不満を抱くのも分からなくはない。けれど、ここは公式のパーティー会場。ましてやふたりは今日の主役なのだ。

気まずそうに俯いている新郎と苛立ちを隠そうともしない新婦を見て、客人がどう思うか考えないのはあまりにも浅はかすぎる。