私が正式な宰相秘書官になって、一年と半年が過ぎた。

あれからヨーロッパは比較的静かで、ギリシャが各国の支援を受けながらトルコと対立している以外は、特に大きな革命運動も起こっていない。

おかげで私も日常の仕事を覚えることに集中できて、今やゲンツさんがいないときでもクレメンス様の秘書として活動するようになっていた。

そんな平和な日々を送るウィーンだけれど、今日は久々の慶事に王宮中が湧いている。

フランツ一世陛下の次男、オーストリア大公であるフランツ・カールが結婚するのだ。

お相手はバイエルン王国の王女、ゾフィー。まだ十六歳だそうだ。

実はこの王女、のちにオーストリアの歴史に大きくかかわってくる重要人物らしい。

今から二十四年後、次期皇帝である長男フェルディナンド一世が病弱で子を残せなかったせいで、オーストリアの帝位継承権は彼女とフランツ・カール大公の子へとまわってくる。

つまりゾフィーは将来の皇帝の母なのだ。