「ってことは、ここはドイツじゃなくオーストリア帝国か……」
頭の中を整理しながら、私はホーフブルクがウィーンにある王宮だったことも思い出した。彼は1821年に宰相になっているので、王宮へ仕事に行ったのかと納得する。
(それにしても、メッテルニヒってものすごい美形だったんだな。あんなモデルみたいな人が、ヨーロッパの大帝国の宰相だなんて……なんつーハイスペック)
どの時代にも天から二物も三物も与えられた人物はいるものだなとつくづく感心をする。ところが。
「……ん? 1773年~1859年……?」
メッテルニヒの項目に書かれた彼の生没年を見て、眉根を寄せる。
「今が1822年ってことは……あの人、四十九歳? 嘘っ!」
ある意味、今までで一番衝撃的な情報だった。いくら美形とはいえ、あんなアンチエイジングがあってたまるか。
彼の容姿はどう見ても二十代後半から三十代くらいにしか見えない。顔だけじゃない、髪の質、体型、姿勢、声、喋り方、どれも壮年期を過ぎた男性のものとは違う。
しばらく電子辞書とにらめっこをしたまま考え込んだけれど、バッテリーがもったいないのでやめた。
おとなしくベッドに戻って腰掛け、入り乱れた情報を整理する。
(ええと、ここは十九世紀。ウィーン体制真っただ中のオーストリア。私はオーストリア帝国宰相のメッテルニヒに拾われた……で、これからどうすればいいの?)
そこまで考えを巡らせたとき、部屋の扉がノックされた。返事をすると先ほどの女性が食事のトレーを持った女性を引き連れて入ってくる。



