メッテルニヒ邸の三階はクレメンス様の書斎や寝室や居間などの私室と、私に宛がわれた部屋がある。
幸い私の部屋とクレメンス様の寝室は離れているけれど、間違っても情事の物音など耳に入れたくなくて、私は部屋に戻るとベッドへ飛び込んで頭から布団をかぶった。
クレメンス様が女性にモテるのは知っている。そりゃああれだけのイケメンで国でトップのエリートなのだ、モテない訳がない。そして彼が夜会などのあと、時々女性の屋敷や部屋に行っていることにも気づいていた。
もちろん何をしていたかなんて聞いたことはないけれど、聞くまでもない。というか知りたくなくて、聞くことも考えることもしなかった。
そうやって直視するのを避けていたことが、今、たった数部屋先で行われているのかと思うと、私は無性に嫌な気持ちになってしょうがなかった。
「……クレメンス様の馬鹿。今日は私のお祝いなんだから、少しは慎んでくれたっていいのに……」
本当はこの後、彼にお礼を言いに行くつもりだった。こんな盛大なお祝いを開いてくださってありがとうございます、って。
それで、これからもっともっと頑張ってあなたの片腕になれるくらい立派な秘書になってみせますって、言いたかった。



