「僕は、愛する人としか身体を重ねたくはありません! ましてや政治利用するためにそんなことをするなんて、最低です!」
元の世界で秘書をしていたとき、取引先との話し合いをスムーズにさせるため水面下で様々な手を回した。けれど、身体を使うようなことだけは絶対にしなかった。
暗にそれを要求してくる相手もいたけれど、まともなビジネスの駆け引きもできない相手だと軽蔑さえしていた。
私はこの世界に満足しているけれど、そんな最低なことがまかり通ってしまっていることだけが残念だ。
プリプリと息巻く私を見て、ゲンツさんはやれやれと言った表情で溜息をつく。
「潔癖なこって。お前が結婚前の若い姉ちゃんならまだ可愛げもあるがな、いっちょまえの行政官になった男がそんなこと言っても笑われるだけだぜ」
どうせ中身は結婚前の若くはない姉ちゃんですよと思いながら、私はつっけんどんに背を向ける。
「ゲンツさんやクレメンス様の奥様になる人はお気の毒ですね。僕だったら絶対耐えられません」
「は? なんでお前にそんなこと言われなくちゃならねえんだよ!」
喚くゲンツさんの言葉に耳を貸さず、私はすっかり拗ねた表情のまま自分の部屋へと歩き出した。



