「不潔……」
思わずボソッと呟いてしまえば、ゲンツさんが呆れたような表情を浮かべた。
「相変わらずお前は潔癖だなあ。男が女を抱いて何が悪いんだよ。そんなんだからご夫人方に『可愛い坊や』なんて陰で呼ばれるんだぞ」
男の格好をしている以上、私にもご夫人方からアバンチュールのお声がかかったことがある。けれど当然それに応える訳にはいかないので、断り続けているうちに『可愛い坊や』……つまり性に目覚めていない子供だと陰で笑われるようになってしまったのだ。
私は女だからご夫人の誘いに乗る訳にもいかないし、そもそも男だとしてもそんな爛れた遊びはしたくない。これはもう育った環境による貞操観念の違いだ。
けれどこちらの事情など知ったこっちゃないゲンツさんは、強引に私の肩に腕を回して言う。
「だから何度も言ってるだろ? 俺がいい女を紹介してやるから、さっさと童貞捨てて来いって。一回やっちまえば世界が変わるぞ。勇気出せ」
ゲンツさんの面倒見の良い兄貴ぶったところは好きだけれど、こういうデリカシーのないところは嫌いだ。
私は彼の身体を思いっきり押しのけて腕の中から脱出すると、大人げなくむくれた表情を浮かべた。



