元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
「へえ~? そりゃあ初耳だなあ、ツグミ?」

隣に立っていたゲンツさんの大きな手がワシャワシャと乱暴に私の頭を撫でてきた。

「撫でられたいんなら、どうして師匠である俺に言わないんだよっ! いっくらでも撫でてやるぜ、ほらほら!」

「や、やめてください! 髪の毛グシャグシャになっちゃう!」

どうやらゲンツさんは私がラデツキー将軍に懐くのが相当気に食わないらしい。

彼の地雷を踏んでしまったなと激しく後悔したときには、彼に散々撫でられて髪がボサボサのぐしゃぐしゃになった後だった。

時計の針が零時を回り夜も更けた頃、パーティーはお開きとなった。

馬車で自分の屋敷に帰る人もいれば、メッテルニヒ邸の客室に泊っていく人もいる。

私もそろそろ自室へ戻ろうとしたけれど、その前にクレメンス様に今日のお礼を言いたくて、足を広間へと向けた。

広間ではまだお喋りしたりない人達が、コーヒーを飲みながら歓談している。

けれど、残念ながらその中にクレメンス様の姿は見当たらない。

もう自室に戻ってしまったのだろうかと考えて広間を出ると、ちょうど廊下を歩いてきたゲンツさんと会った。