「宰相秘書官就任、おめでとう」
会場中をクルクルと回って次々と挨拶をしている私に、声をかけてきたのはラデツキー将軍だった。
「ラデツキー将軍! 来てくださったのですね、ありがとうございます」
彼とは財政会議のときに会って以降、時々顔を合わせている。特に最近ではギリシャ支援の会議にラデツキー将軍も出席しているので、しょっちゅうだ。
彼は相変わらず真面目で情深く、会議でも兵士達の犠牲を少なくすることに心血を注いでいる。
今日も黒髪を綺麗に撫でつけ勲章を付けた軍服をぴしりと着こなしている姿は、整然としていて凛々しい。
「あなたの入隊を待っていたのだが、すっかり文官になってしまったな」
珍しく冗談を言って微笑むラデツキー将軍の姿に、私も思わず頬が緩む。
「僕にはマスケット銃は重すぎて……ペンでも握っている方が性に合っているみたいです」
ラデツキー将軍はフフッと笑うと、「それでいい。平和の国から来たあなたに戦場は似合わないからな」と言って、私の頭をポンポンと軽く撫でた。
ラデツキー将軍の癖なのか、それとも背の低い私の頭がちょうどいい位置にあるのか。彼は私の頭を軽く撫でることがよくある。
なんだか子ども扱いをされている気もするけれど、大人然としたラデツキー将軍のすることだからか、許せてしまう。
けれどなんとなく照れくさくて、はにかんだ笑いを浮かべたときだった。



