午後六時。
私の宰相秘書官就任パーティーは、メッテルニヒ私邸で行われた。
舞踏室のテーブルには色とりどりのご馳走とお菓子がたんまり並び、招待された大勢のお客様で賑わっている。
会場に入った私は大勢の拍手で迎えられ、みんなの前で挨拶をすることになった。
「宰相秘書官就任という栄誉に預かれましたことを心より感謝し、ヨーロッパを牽引していくクレメンス様のお力になれるよう、この身を尽くしたいと思います」
自分ではまあまあの挨拶だったのではないかと思ったけれど、後から言われたゲンツさんのアドバイスによると、少々謙虚すぎるとのことだ。あと、面白みがないと。
「フランス人の洒落まくった挨拶を十分の一くらい取り入れろ」と言われ、自分は真面目で謙虚な日本人気質が染みついてるのだなあと内心つくづくと思った。
パーティーには、大富豪ロスチャイルド男爵にオーストリアの名門貴族エステルハージ侯爵などそうそうたる顔ぶれが並んだ。もちろん、クレメンス様が私のために顔を繋いでおいた方がいい人達を厳選して招待してくれたのだ。
「宰相秘書官就任おめでとう。きみならすぐに官職に就けると思っていたよ」
「さすが宰相閣下の秘蔵っ子だ。これからの活躍が楽しみだな」
「はい、ありがとうございます」
集まってくれたお客様の多くは、宰相官邸やヴェローナ会議、クレメンス様に連れていってもらった夜会などで顔を合わせたことのある人だ。
ウィーンに来てから一年と少し。いつの間にか知り合いが多くなったものだと、感慨深く思う。



