元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
私もそんな例に漏れず、懐中時計のリボンをポケットから出していたのだけど……そのリボンの先に、金色のフォブがついていることに気づいた。

慌てて懐中時計をポケットから取り出し、リボンの先についているフォブを手に乗せて見つめる。

それはシール・フォブと呼ばれる印章付きのフォブだった。印章にはオーストリア帝国宰相秘書官のシンボルと私の名が刻まれている。

「クレメンス様、これ……」

「私からのお祝いだ。おめでとう、ツグミ」

さっきのバックハグは、どうやら私の懐中時計のリボンにこれをつけていたらしい。ポケットから出さず密着してそんなことをする辺りが、人たらしのクレメンス様らしいというか、なんというか。

けど、私の就任を祝ってくれる彼の気持ちが――とても嬉しい。

「ありがとうございます! 大切に使います!」

官職のシンボルと名前入りの印章は、私が一人前の行政官になった証だ。改めてその嬉しさを噛みしめ、手の上で輝く金のそれをギュッと握りしめる。

そんな私にクレメンス様も目を細めると。

「今日はきみの大切なお祝いだ。綺麗に身支度をして行きなさい」

そう言って、しなやかな指先で私の短い髪を二、三度梳いた。