「ほら、あそこだ。紅葉見られるの嫌いだから、騒ぐなよ?」
「……はい」
美桜さんは門をほんの少しだけ開けて、紅葉さんのいるところを、顎で示して、俺に教えてくれた。
どうやら紅葉さんは、ワイングラスがあるテーブルの近くのソファーに座ってるらしい。
店内は、中央にあるワイングラスのタワーの他には、その周りにあるテーブルやソファーの端にバラの造花などがあったりと、随分煌びやかに装飾されていた。
「いらっしゃい、お嬢さん。今日も来てくれたんだ、嬉しいな」
「もー、紅葉さん、お嬢さんなんて言わなくていいよー」
紅葉さんは指名された場所に行くと、そんな絵に書いたようなセリフを言って、女を喜ばせた。
「え、どうして? 君、こんなに可愛いのに」
女の人の頬に手を当てて、紅葉さんは笑った。
「またまたー、どうせ、誰にでもそういうこと言ってるんでしょう?」
「いや? ――――だよ」
女の耳元で、紅葉さんは小さな声で囁いた。
「あの、美桜さん、今紅葉さんなんて言ったかわかりますか?」
「ん? ありゃぁたぶん、“君だけだよ”だな」
俺は思わず、紅葉さんから目を背けた。
「もういいのか?」
「……すごく、キザですね」
美桜さんに顔を覗きこまれ、俺は小さな声で言った。
「まーな。ホストってのは、真面目でフレンドリーな奴か、チャラい奴かキザな奴か、あとはコミュ力が高い奴が売れるんだよ! 金が欲しいなら、そのどれかになるこったな」
「……分かりました」



