「じゃ、今日はありがとう。散々だったけど楽しかったわ」
私の嫌いな甘いもの食べて、そこまで面白くないホラー映画を見て、途中は帰りたいと思った節もあったけど。
案外あっという間でいつのまにかもう夕刻に差し迫っていた。
駅の改札前について私は、別れようとすべく挨拶をしようとしたが
「……これ何?」
歩夢が私の腕を掴んできた。
振りほどこうとしても、流石に男子の力には敵わない。
そして、力強く引っ張られ、気づいたら私は彼の胸に身を預ける状態になっていた。
「いきなり何して……」
「覚悟しろよ、沙也加」
耳元で低音の掠れた声で囁いた歩夢。
抱きしめられてるということも忘れて、心臓が早鐘を打った。
「ぜってー惚れさせてやるからな」
そして私から離れてそう言った歩夢は艶やかな笑みを浮かべたのだった。



