王子様の弱みを握っただけなのに。



「……ひぃ」



思った以上に近くにいた。


その距離わずか数歩。


男はおそらく30代、髪もボサボサで見るからに廃人というか……ストーカーだと思われてもおかしくはない風貌だった。




「やっと振り向いてくれた」



男はそう言って、ニンマリと嬉しそうに笑った。


こんなにも怖い笑顔を初めて見た気がする。


足がすくむ、恐怖で身動きできない。



怖い怖い怖い怖い。



「あれ? 喜びのあまり何も反応できない?
可愛い子だなあ」



心の中で全力で否定するけど、それを口にすることができなかった。


体温が著しく下がっていくように感じる。



「迎えるって書いたでしょ?
だから今日沙也加ちゃんを待ってたんだ」



そんなの書いてなかった……昨日と一昨日読んでなかったけど、もしかしてそこに……?