暗黒王子と危ない夜【after】



ふたりきりになりたい気持ちがなかったと言えば嘘になるけど、いざふたりになると、緊張で何を話していいのかわからなくて。

そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、本多くんはギッと椅子の位置を動かして、体の距離をつめてくる。


綺麗な黒髪。

サラッと揺れて、真っ黒な瞳があたしをのぞきこんだ。



「相沢さんよろしくね。……あ、先生って呼んだほうがいいかな」



刹那、心臓がうるさいほど音を立てて、ちっとも冷静じゃいられなくなる。



「せ、んせいは、ちょっと」

「はは、だめ?」


カクッカクッと首を縦に揺らす。

自分でもわかるくらいのぎこちなさ。挙動不審すぎて絶対おかしい。



「助かる。おれ、ここままじゃ3年生になれないって言われたから」



青色のペンケースを開き、長い指がシャープペンを取り出す。



「これ握るのも、正直何ヶ月ぶりだろうって感じだし……。この表現、大袈裟じゃないのが痛いね」



そう言いつつも、本多くんの持ち方は丁寧でしっかりしていて、教科書に載っているお手本みたい。

だけど、何か少し違和感を覚えて、なんだろうと見つめていると、あることに気づく。



「あれ、左手……?」